分娩台がなかった産科医院
私が10数年前に勤務していた福岡県北九州市の小倉にあった産科医院は、分娩台というものががありませんでした。
普通の和室(お産の部屋と呼んでいた)に畳に敷いたお布団の上で出産をしていました。
残念ながらその産科は閉院してしまいましたが、そこには自然なお産をしたいと希望する妊婦さん達が集まっていました。
そこでは、誘導出産や促進剤の点滴をほぼしませんでしたし、出産後に赤ちゃんとママが離れることもなく、ほぼミルクも与えず、K2シロップはスプーンで飲ませていました。
自然の力で自分で産むこと(赤ちゃんが生まれてくること)、母乳で育てることが当たり前で、よっぽどのことがない限りミルクをあげないことが当たり前という考えの産科医院でした。
そうするために助産師が毎回毎回妊婦さんとお話をして妊婦健診での指導に力を入れ、助産師が担当する妊娠中の教室も様々なものに参加してもらって(食事・母乳・出産・整体・体操・ヨガ)とにかく自然に産める体を整えたり、授乳を出産後にすぐにできるよう乳頭の形を整えるマッサージをしてもらい、乳頭の皮膚を鍛えて赤ちゃんの吸う力に耐える乳首を作る準備をするよう指導していました。
安産のために散歩を勧めたり、温灸のテルミーというものを取り入れたり、出産時の裂傷を最小限にするために会陰マッサージなどの指導もしていました。
そこでは助産師が、女性が自分自身の力を引き出し、自覚をもってわが子を迎えることができるように体や気持ちを整える援助をしていました。
たくさんの目からうろこの経験でしたが、ずっと昔のお産はこうだったんだろうなと思います。
薄暗い明りの和室の神聖な雰囲気、家族に見守られての出産。
助産師は黒子に徹し、主役は出産する女性でした。
いろんな出産があって、みんなが自分なりの満足できる出産ができるといいな、と思います。