不安に寄り添った助産師Kさん
北九州市の産科のクリニックで勤務していた15年ほど前の話です。
同僚だった助産師のKさんの行動が忘れられません。
Aさんがが初めての赤ちゃんを出産しました。その方はとても年齢が若くあどけなさも残る印象の方でした。妊婦健診では穏やかに笑顔が見られますが、言葉での感情の表出がほとんどありませんでした。
そのクリニックは、「母児同室」という出産後ずっと赤ちゃんと一緒に過ごすスタイルをとっていたので分娩室から病室に戻ると赤ちゃんを隣にしてお布団で休みます。
授乳やおむつ替えの時はスタッフが訪室して介助していますので心配な時はスタッフを呼んでくれます。またスタッフは、時間おきに赤ちゃんの状態をチェックしにお部屋に行きます。
初めての育児で赤ちゃんと二人きりで夜を過ごすことは初産婦さんにとってはとても不安でいっぱいです。
Aさんも同じで夜勤だった助産師kさんを呼びました。
授乳やおむつ替えを一緒にした後、通常だったら「また心配だったら呼んでね」とお部屋を後にしてナースステーションに戻っていくのですが、助産師のKさんは違いました。
Aさんの言葉に出さない不安の大きさを感じ取ったKさんがとった行動をのちにKさんに教えてもらった時、退院の時にAさんがスタッフの前で涙を流すという初めての素直な感情を表現してくれた理由がわかりました。
なんと、KさんはAさんに「ずっとここにいるから大丈夫よ」といって隣でごろんと横になったのです。
病室は和室の広い部屋でしたので、Kさんは部屋の中の、Aさんから少し離れたところで毛布を持ってきて休んでいたそうです。
その日の夜、クリニックでは幸い出産もなく、KさんはゆっくりとAさんと向き合えたようでした。
そのクリニックでは妊娠中から助産師外来でアンケートを取ったりして妊婦自身の母子関係がどうだったかを教えてもらいます。
母子保健では重要とされる妊婦の母子関係。
Aさんはあまり母子関係は良好ではありませんでした。
甘えたりすることができなかったのです。
夜勤の助産師Kさんがとった行動は、まるでAさんのお母さんのようだと感じました。
Aさんの安心感はどれほどだったでしょう。
・・・それで退院の時のAさんの涙。
夜勤で出産がなかったことも幸いかもかもしれませんが、何よりKさんがAさんの不安を感じ取り受け入れてくれたことが嬉しかったんではないでしょうか。
その時の赤ちゃんももう大きくなっているでしょう。Aさんが元気でいることを願います。
助産師Kさんは今も北九州市で助産師として活躍されています。